お口のトラブルと命に関わる病

歯周病は「死の病」と呼ばれています。それは、私たちが歯を失う根本的な原因をつくっている歯周病菌とむし歯菌が、死に直結する病気の引き金にもなっているからです。
特に深刻な合併症を引き起こす糖尿病は昔から歯周病との関連性が指摘されています。

▶知っているようで知らない歯周病

歯周病が引き起こす負の連鎖

私たちが生きていくための大切なエネルギー源としてブドウ糖が存在していて、糖尿病とは血液中のブドウ糖(血糖値)が高くなる病気です。血糖値が高いと唾液の分泌量が減り、喉や口が渇きます。唾液には口腔内を浄化したり修復する働きもあり、歯周病の進行を防いでくれているのですが、口腔内が乾燥してしまうと、その働きは低下して歯周病菌に対する抵抗力が弱まります。また、唾液はもともと血液からつくられているので、高血糖だと唾液に含まれる糖分の濃度は高くなります。糖分が大好きな歯周病菌には最適な環境を提供してしまうことになります。

さらに最近、歯周病になると糖尿病の症状が悪化するという逆の関係も明らかになってきました。

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歯周病が自然治癒することは絶対にありません。歯周病を放置しておくということは、常に血液中に歯周病菌の毒素が流れ込んでいる危険性が高くなることであり、それに対抗する炎症物質によってインスリンの働きが阻害され続けている状態です。身体はそれを補おうとして、より多くのインスリンを分泌するようになります。この状態が長く続いてしまうと、最終的にインスリンの分泌が枯渇してしまいます。手足の切断を余儀なくされる末期の糖尿病です。

一方で近年、「糖尿病の患者さんが歯周病を徹底的に治療することで血糖値が改善する」ということも明らかになってきています。歯周病を徹底的に治療することで歯周病菌が血管内に侵入することを防ぐことができれば、炎症物質の分泌が抑えられインスリンの働きが正常に戻るので、自然と血糖値も改善するということだと思います。糖尿病の患者さんは歯周病も併発している人がほとんどです。まずは歯周病をきちんと治療することが、血糖値を改善する第1歩といっても過言ではなさそうです。

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一般的に、血糖値が高ければ糖尿病。血糖値が高いということは、常に血液がドロドロの状態です。
血液がドロドロだと当然流れにくくなりますから、血圧は上がりやすくなってしまいます。血圧が高いと血管壁の細胞を傷つけます。
その傷ついた血管の治癒の過程で、血液を固めて出血を止める役割をもつ血小板の働きによって血栓〈けっせん〉がつくられることで、結果的に血管内の壁が厚くなり血液の流れるスペースが狭くなっていきます。これが動脈硬化です。

歯周病との関連性では、血液中に侵入してきた歯周病菌を退治するために分泌された炎症物質により血管が炎症を起こし、血管そのものを硬化させたり、血栓がつくられたりして動脈硬化を進行させると考えられています。

糖尿病の患者さんの場合、その二次症状として動脈硬化による「心筋梗塞」や「脳梗塞」といった、即命に関わるような合併症を併発することがあり、それらは糖尿病による血圧上昇が原因となっています。これら高血糖・高血圧から引き起こされる合併症には共通点があります。心筋梗塞も脳梗塞も細かい部分では違いがあるものの、基本的には動脈硬化(血管障害)から発病することが多いということです。

だれでも年を重ねれば血管の老化は進みます。でも、実際の年齢以上に血管の劣化・老化を早めてしまう原因は、食べ過ぎや飲み過ぎ、喫煙やストレスなどの生活習慣、それらと密接に関係しつつ発病・進行する糖尿病などの生活習慣病です。そして近年の研究で歯周病もまた、動脈硬化(血管障害)の危険因子である可能性が高いことが解明されつつあります。

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ひと口に心臓病といっても、その種類はいくつもありますが、歯周病と間違いなく関連がある病気として「感染性心内膜炎〈かんせんせいしんないまくえん〉」があります。
感染性心内膜炎とは、心臓の内壁を覆っている膜「心内膜」に細菌などが感染して炎症が起こり、心臓の働きが低下する病気です。
お口の中にいる歯周病菌などの悪玉菌が、抜歯や出血を伴う歯肉治療時に血液中に入り込んで発病(菌血症)することは古くから広く知られています。

また、歯周病と恐らく関連がある病気として「虚血性心疾患〈きょけつせいしんしっかん〉」が挙げられます。虚血性心疾患の‘虚血’とは、心臓を覆う血管(冠動脈)が動脈硬化を起こし、血流が悪くなることでその部分の組織が障害を起こしたり機能が低下することです。具体的には、心筋梗塞と狭心症が該当します。

動脈硬化により血管が狭くなり血液の流れが悪くなると心臓を動かす血液が不足します。すると心臓からSOSが発せられ、胸の強い痛みや圧迫感を感じるようになります。これが狭心症です。
さらに動脈硬化が進行して、血管が完全にふさがり血の流れが止まってしまうのが急性心筋梗塞症です。狭心症は15分以内におさまるケースがほとんどですが、急性心筋梗塞症は胸全体の痛みや圧迫感が30分以上続くことになり、冷や汗、吐き気、おう吐、呼吸困難を伴うこともあります。

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脳卒中とは、脳の血管がつまったり破れたりして、脳の一部に血液が流れなくなったり脳がむくんで圧迫され、その部分の機能障害によって起こる発作です。血管が詰まるタイプを脳梗塞、血管が破れるタイプを脳出血といいます。脳梗塞は脳の血管の動脈硬化によって起こることが多く、歯周病との関連性が疑われています。

虚血性心疾患は心臓の動脈硬化が進んで発病する病気ですが、動脈硬化は心臓の血管(冠動脈)だけではなくて脳の血管にも起こります。虚血性心疾患の原因が動脈硬化で、その動脈硬化の原因の一部が歯周病であるとすれば、同じく動脈硬化が原因で発病する脳梗塞もまた歯周病と関係があると考えれていて不思議はありません。

歯周病と関連があるその他の主な疾患

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歯周病菌が体内に入り込む経路としては、血液のほかに気道があげられます。唾液の中に歯周病菌が混ざって、それが気道に流れ込んでしまうのです。その影響はおもに肺に現れます。
肺炎とは文字どおり“肺の炎症”のことです。空気中の細菌が気道を通って肺に到達し、そこに炎症を起こします。また、唾液が気道に入り込むことで肺炎を引き起こすこともあります。さらに、人工呼吸器をつけた患者様の肺炎リスクは極めて高く、病院内での感染症による死因のトップです。歯垢の中の悪玉細菌がチューブを介して肺に侵入して深刻な影響を及ぼしていると考えられています。

気道に唾液などの異物が入りかけると、通常は反射的にむせたりしてそれを防ぎますが、睡眠中だとその反射が起こらず、微量ながら気道に流れ込んでしまうことがあります。これを誤嚥〈ごえん〉といい、誤嚥によって起こる肺炎を「誤嚥性肺炎」と呼んでいます。
誤嚥は、病気や加齢、歯の本数が少ない方が飲み込む機能や咳をする力が弱くなったり、唾液の中に多くの細菌が含まれている歯周病の患者さんは口腔内の細菌や逆流した胃液が誤って気管に入りやすくなり、その結果、誤嚥性肺炎を発症します。

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私たちの身体を形成している骨は、骨をつくる細胞と、骨を壊す細胞が常に活動しながら、毎日少しずつ骨を再構築してくれています。しかし、そのバランスが崩れると必要以上のカルシウムを溶かし出してしまいます。特に女性は閉経により、骨の形成を促進して骨の吸収を抑制する物質を促進する女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が不足することで、そのバランスを保てなくなり、骨量が減り骨粗鬆症に陥りやすいです。

歯周病により炎症が引き起こされると、骨の吸収を促進する炎症物質が分泌されることがわかっています。すると、ますます骨を壊す・吸収する側に傾いてしまいます。骨粗鬆症と歯の喪失については、まだ直接的な関係があると明確になったわけではありませんが、今も多くの研究がなされ、大部分で関連性があると報告されています。

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歯周病は親から子どもへ感染しますが、妊婦さんが歯周病だと胎児へ悪い影響を及ぼすことが明らかになっています。歯周病で炎症が引き起こされている患部では、分娩(子宮収縮)に関わる物質と共通の働きをする炎症物質も分泌されているといわれています。口腔内の歯周病菌が血液に侵入して体内に入ると、産科器官にまで達して炎症を引き起こします。すると、分娩の適切な時期に至る前に子宮収縮が引き起こされて早産になる危険性が高まります。

また、歯周病菌が血液を通して胎盤を通過して胎児に直接感染してしまうと、発育不全による低体重児出産も引き起こします。アメリカのある調査では、早期低体重児出産の発現率は歯周組織の状態が健康な妊婦さんで4.1%、歯周病だが治療を受けた妊婦さんで7.5%であったのに対して、歯周病だが治療を受けなかった妊婦さんは79%であったことが報告されています。これは逆にいえば、早産や低体重児出産の産科的疾患は歯周病治療によりそのリスクを大幅に軽減できるということです。妊婦さんが口腔内の健康状態の向上を意識することは、生まれてくる子どもの口腔内の健康状態の向上、さらには日本人の口腔内の健康状態の向上にもつながります。

健康寿命とお口の中の健康

tooth04_09 歯科医師が糖尿病や動脈硬化のことにまで触れたので、面喰らった人もいるかもしれませんが、それほどお口の中の環境が全身の健康に大きな影響を及ぼしていることがお分かりいただけたと思います。お口の中の健康は、健康寿命と深く関わり合っています。
健康寿命とは、日常で介護を必要とせずに自立した生活のできる期間を指します。
厚生労働省によると、2010年の健康寿命の平均は男性が70.42歳(平均寿命は79.55歳)、女性は73.62歳(平均寿命は86.30歳)でした。人が自立した生活ができなくなってから命を全うするまでに、男性で約9年、女性で約13年もの誤差があります。それは多くの日本人が70歳の時点で平均20本もの歯を失っている事実と決して無関係ではありません。

歯の喪失が一定のラインを超えると、食べ物を噛み砕き、飲み込みやすい形状にして胃に送る(摂食・嚥下)能力の低下がみられることがわかっており、それが80歳で20本の歯を残そうという8020 運動の論拠にもなっています。

すなわち、残存歯数が20本を下回ると、「食べる」ことを不自由に感じる人が増え、食べ物の選択肢が減ります。固いものが食べられず、普段の食事がやわらかい物中心になったり、栄養の偏りや低栄養を招きます。やわらかい食べ物は歯垢を蓄積しやすく、歯周病の発症・進行を引き起こします。
また、栄養の偏りは生活習慣病やその要因とも言われる内臓脂肪症候群(メタボリック シンドローム)を招きます。

さらに、低栄養が長く続くと筋量の維持に必要なタンパク質などの摂取が不充分になり、筋力の低下や運動能力の低下などを招き、身体的自立が損なわれる要因としても非常に重視されています。その他にも、「よく噛める」ことが視覚や聴覚、あるいは脳機能(学習記憶能力、認知症等)にも影響を与えるとされており、歯の喪失を防止することが全身の健康をも維持することにもつながることがさまざまな研究によって明らかにされてきています。
歯のグローバルスタンダード
  • なぜ日本人の歯は弱いのか?
  • 世界から見た日本人の歯の非常識
  • 人生最大の後悔
  • お口のトラブルと命に関わる病
歯を失う3つの理由
  • 歯周病ゼロへの挑戦
  • むし歯ゼロへの挑戦
  • 歯が崩壊する最後の理由
  • 人生を変える理想の歯
繰り返し治療から抜け出すために
  • 歯科衛生士の魅力と実力
  • データ管理型歯科医療の重要性
  • 歯科のイノベーション
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  • 細菌との戦い 〜院内感染防止〜
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